世界的な抹茶ブームが続く一方で、国内の日本茶市場は縮小傾向にあり、若年層のお茶離れも課題となっています。
そうした中、日本の緑茶発祥の地として知られる宇治田原町で創業100年を迎えた老舗のお茶屋「宇治田原製茶場」は、若い世代や海外の人々に向けた新商品の開発やブランド展開に挑戦しています。
今回は、お茶文化の未来を見据えて挑戦を続ける同社に、日本茶業界の現状や新ブランド誕生の背景、そして海外展開への取り組みについてお話を伺いました。
Profile
宇治田原製茶場 直賣部
茶を、ひらく。プロジェクトチーム
向井様
抹茶ブームだけでは終わらない。
和食文化と共に世界へ広がる「日本茶」
―― 近年、海外で抹茶をはじめ日本茶への関心が高まっていますが、その背景にはどのような要因があるとお考えですか。
まずは、なによりも安心安全のメイドインジャパンがあります。そのうえで、食文化として和食が定着しつつあり、和食に合わせる飲み物として、日本茶への関心が高まっていると考えています。また近年の健康志向の高まりや、SNS疲れなどで心の安らぎを求める動きが世界的に広がっており、抹茶や日本茶ブームの後押しになっているのではないでしょうか。
――2013年にユネスコ無形文化遺産に登録された和食に合わせて、日本茶も注目されているのですね。海外市場において、特に人気の高い日本茶の種類はありますか。
やはり圧倒的に抹茶ですね。特に欧米圏では、健康食品やスーパーフードとして認識されており、店舗でも「抹茶が欲しい」といった要望が寄せられています。
ただ、抹茶の生産量が増える一方で、煎茶やほうじ茶など日常的に飲まれているお茶の供給が減少し、価格が上昇するなどの課題も生まれています。

私たちとしては、抹茶人気だけで終わってほしくないという思いがあります。抹茶を入口にして、日本茶には煎茶や玄米茶、ほうじ茶などさまざまな魅力があることを知っていただきたいですね。日本茶が世界的ブランドになれば、業界全体の発展にもつながると考えています。
若者や海外の人も楽しめるお茶を。
これまでにない発想から生まれた新ブランド
――こうした市場の中で、宇治田原製茶場さんの新ブランド「京玄米茶 上ル入ル」や「KUNTea」などを立ち上げられた経緯について教えてください。
お茶業界のお客様は高齢層が中心で、このままではお茶文化が次世代に継承されなくなるのではないかという危機感がありました。そこで「おいしさ」や「産地」だけでなく、商品そのもののストーリーに共感していただけるブランドづくりを目指しました。
「京玄米茶 上ル入ル」は、まさにその考え方から生まれたブランドで、鏡餅のかけらを炒ってお茶にブレンドしたことがルーツといわれる玄米茶を現代風に再解釈し、ストーリー性を持たせました。

▲備長炭炭火炒り餅ブレンドの「京玄米茶 上ル入ル」
また、「KUNTea」についても、お酒が飲めない人に向けて、“かっこいいノンアルコールの選択肢”をつくりたいという想いから、燻製と日本茶を掛け合わせたノンアルコールドリンクを開発しました。

▲日本茶×燻製のノンアルコールドリンク「KUNTea」
そうした新しいブランド群を取りまとめる存在として、“茶を、ひらく。宇治田原製茶場 直賣部”を立ち上げました。
――商品のコンセプトだけでなく、パッケージデザインも非常に印象的です。京都土産としても手に取りたくなるデザインだと感じました。
ありがとうございます。
「上ル入ル」というブランド名は、京都の住所表記で使われる特有の言葉をモチーフにしており、シンボルマークである矢印は、そのブランド名をシンプルにダイレクトに表現しています。また、「東」や「西」という商品には、早朝と夕暮れにちなんだストーリーを込めるなど、細部までこだわりました。

▲「京玄米茶 上ル入ル」の矢印を取り入れたパッケージデザイン
店舗の売り場づくりでも、季節感やライブ感を大切にしています。例えば秋には紅葉シーズンの商品を前面に展開し、京都の秋を感じていただけるような店内演出を行っています。
――これまでの事業とは違う新しいことを始めるにあたって、苦労されたことはありますか。
当社はもともと通信販売が中心で、お客様と直接接する機会がほとんどありませんでした。そのため、POP UPや店舗販売など対面でのブランド発信は、これまでとはまったく異なる取り組みでした。
新しい挑戦には社内でも戸惑いがありましたが、活動を続ける中で少しずつ理解が広がり、現在では店舗運営やイベントへの参加を通じて社員の商品理解も深まっています。
体験価値を重視した実店舗運営
インバウンド客が集まる京都での販売について
――2026年4月6日、京都タワーの商業施設「京都タワーサンド」に、実店舗「茶を、ひらく。宇治田原製茶場 直賣部」をオープンされました。海外からのお客様も来られているのでしょうか。
国内メインになりますが、海外のお客様も来店されています。夏シーズンは暑さもあり落ち着いていましたが、これからの紅葉シーズンになると、さらに海外のお客様が増えてくることが予想されます。
また、多言語対応スタッフの配置や外国語POPの設置など、海外のお客様が利用しやすい環境づくりにも取り組んでいます。

▲試飲カウンターに置かれた、「ENGLISH OK!」「中文 OK!」のPOP
――特に人気の高い商品やブランドはありますか。
宇治抹茶に和三盆糖を混ぜた「ぼん【宇治抹茶グリーンティー】」と、「京玄米茶 上ル入ル【水出し緑茶】」ですね。やはり抹茶の人気が高いですが、アジア圏のお客様をメインに「上ル入ル」など抹茶以外の日本茶を気に入っていただくこともあります。

▲(左)ぼん【宇治抹茶グリーンティー】(右)京玄米茶 上ル入ル【水出し緑茶】
――店舗での試飲や接客体験は、実際の購入につながっていると感じますか。
試飲体験がなければ売れないといえるほど、大いにあります。実際に3~4種類のお茶を飲み比べていただくことで、お茶への理解が深まり、気に入った商品をご購入いただく流れができています。

▲無料で体験できるお茶飲み比べ
――今後、海外向けに強化していきたいことはありますか。
抹茶の需要が多いため、今後、ストーリーにこだわった複数のブランドを展開する予定です。京都で体験できる新たな抹茶の楽しみ方として、話題になってくれることを期待しています。
実店舗から越境ECへ
インバウンド向けのブランディング強化
高速オフセットでは、宇治田原製茶場様の越境EC立ち上げ支援と海外向けInstagramの運用代行を行っています。実店舗だけにとどまらない、海外展開への取り組みについて伺いました。
――越境ECに取り組まれたきっかけについて教えてください。
抹茶ブームは価格競争になると考えています。そのため、私たちは抹茶の次に来る日本茶として、玄米茶やほうじ茶などにも注目してきました。
「上ル入ル」はストーリー性を重視したブランドですし、「KUNTea」の燻製というコンセプトは、海外でもソーセージやパンづくりなどで馴染みのある製法なので、受け入れられる可能性があると考えました。
そうしたブランドの背景や価値を伝えながら、越境ECにもチャレンジしているところです。
――実際に取り組まれてみて、変化はありましたか。
まだ検証段階ではありますが、お茶のサンプルを無料で配布し、実際に味を確かめていただいた上で購入につなげるサンプリング施策を行っています。
実店舗でも同じですが、海外のお客様は日本茶がどのような味なのか想像できないことがほとんどです。だからこそ、まず試飲していただくことが重要だと考えています。
越境ECでも、商品説明だけではなく、実際に飲んでもらう機会をつくることで、日本茶の魅力を知っていただきたいと思っています。
――実店舗での試飲体験を、越境ECでのサンプリング施策につなげているのですね。Instagram運用についてはいかがでしょうか。
茶摘みや石臼で抹茶を挽く工程、抹茶レシピなど、日本では当たり前の風景が海外のお客様にとって魅力的なコンテンツになることが分かりました。自社だけでは気づきにくい発信のヒントを得られています。
▼摘みたての茶葉を蒸す作業の動画投稿
――日本では当たり前に感じている風景や文化にも、大きな価値があるのですね。海外向けの情報発信では、そうした視点を取り入れることが重要だと感じます。
そうですね。商品の特徴だけではなく、その背景にある文化やストーリーも含めて伝えていきたいと考えています。
新たなお茶の革新者として
宇治田原製茶場が目指す未来
――今後、日本茶市場はどのように発展していくと考えていますか。
タイパ志向やSNS疲れ、セルフレジの普及など、人との関わりが減っている時代だからこそ、逆に人と会話をすることや、丁寧にお茶を淹れて楽しむ時間の価値が高まっていくと思います。
お茶を飲んで心を落ち着かせたり、一息ついたりする時間そのものが、新しい価値として見直されていくのではないでしょうか。
――お茶が現代人の疲れを癒してくれるということですね。海外市場の中で、今後特に期待している国や地域はありますか。
欧米はもちろんですが、アジア圏、特に韓国にも期待しています。
韓国は新しいトレンドや文化への関心が高く、日本茶やMade in Japanの価値が浸透する可能性を感じています。実際に弊社の「SUKIMA」という茶器も現地で取り扱われています。
もし韓国でお茶ブームが起きれば、逆輸入のような形で日本にも新しい流れが生まれるかもしれません。
▼スタッキング可能なコンパクト急須「SUKIMA」
――宇治田原製茶場として、今後挑戦していきたいことや新たな展開があれば教えてください。
宇治田原は緑茶発祥の地であり、伝統文化が色濃く残る地域です。
一方で、私たちはその伝統を守るだけでなく、イノベーションを生み出してきた土地のお茶屋として、新しいお茶の価値を提案していきたいと考えています。
その象徴として立ち上げたブランドが“茶を、ひらく。宇治田原製茶場 直賣部”です。これからも、お茶の新たな可能性をひらく取り組みに挑戦していきたいですね。

▲“茶を、ひらく。宇治田原製茶場 直賣部”のロゴマーク
また、お茶業界に限らず、同じ志を持つ企業とのコラボレーションやイベントを通じて、お茶の可能性をさらに広げていきたいと考えています。
――ありがとうございます。今後も、日本茶を海外へ広げる取り組みをお手伝いできればと思います。
取材を終えて
抹茶ブームだけでは終わらせない。
緑茶発祥の地・宇治田原で創業100年の歴史を持つ「宇治田原製茶場」は、日本茶を若い世代や海外の人々にも楽しんでもらうため、新たなブランドづくりや商品開発に挑戦しています。
その根底にあるのは、伝統を守るだけでなく、お茶の新しい価値を創造し、次の世代へ文化をつないでいきたいという想いです。
「茶を、ひらく。」というブランドコンセプトのとおり、日本茶の可能性をひらく挑戦は、日本茶文化の未来を切り拓く大きな一歩となるかもしれません。
私たちも、日本茶の魅力を世界へ届ける取り組みをサポートしながら、その挑戦を応援していきたいと思います。